舞台「ホロヴィッツとの対話」は、実在した天才ピアニスト、ウラディミール・ホロヴィッツの奇人っぷりを描いた作品です。
喜劇でも悲劇でもなく、ただ淡々と日常が描かれているのですが、奇妙な雰囲気を持つ不思議な作品です。
作・演出は三谷幸喜です。
配役
演者はわずか4人です。
- ウラディミール・ホロヴィッツ:段田安則
- ホロヴィッツの妻ワンダ:高泉淳子
- ピアノ調律師のフランツ・モア:渡辺謙
- フランツの妻エリザベス:和久井映見
場面転換はほとんどなく、舞台のほとんどがフランツ家で行われます。
これだけ、動きの少ない舞台ですから、役者の演技力が問われます。
ホロヴィッツ夫妻のくせの強い役どころを段田安則、高泉淳子が強烈に演じております。
その二人の個性をうまく受け止めつつ、個性を殺されないような絶妙な演技を渡辺謙、和久井映見が行っています。
とにかく4人の演技力に作品の成否がかかった難しいお芝居です。
作品の元となった人物
ウラディミール・ホロヴィッツは実在した天才ピアニストです。
ウクライナ生まれですが、アメリカで活躍しました。
グラミー賞のクラシック部門で何度も受賞しております。
指を伸ばしたまま超技巧的な曲を弾く独特の奏法は、他人に真似できず彼を天才と言わしめた要因のひとつです。
かなりの神経質で奇人であったようです。同性愛者であったという話もあります。
他のピアニストを平気で批判するような辛口でもあったようです。
それでも、みんなから天才だといわれ、後世に語り継がれるピアニストです。
渡辺謙が演じるフランツ・モアも実在の人物です。
ホロヴィッツ、ルービンシュタイン、グールドなどに専任し、彼らに信頼されていたことから、フランツもまた伝説の調律師と呼ばれています。
名優たちの演技力
ホロヴィッツという人を演じるためには、まず天才的な感覚を有しているところを見せつつも、神経質で偏屈で変わり者な演技が必要です。
なおかつ、なぜか嫌いになれない愛らしい一面を有するという、矛盾した要素が必要です。
嫌な人間に見えるけど、だんだんといい人にも見えてくる、段田安則の演技のすごさを思い知ります。
ホロヴィッツの妻ワンダは、高貴な女性で、庶民の感覚が理解できない人物だけど、ホロヴィッツの変人さには嫌気がさしているという、常識人な部分も必要なキャラです。
高泉淳子がうまく演じているおかげで、設定に違和感がありません。
フランツ・モアは、調律師らしく、とても丁寧で繊細な感覚を持っていて仕事にこだわりがある職人気質でありながら、ピアニストたちへのリスペクトを持った演技が必要です。
渡辺謙のやさしいくて力強い口調が役にぴったりはまっています。
エリザベスの役は、この舞台で一番の常識人であることを求められます。
和久井映見の演技は、ホロヴィッツやワンダの常識はずれな部分をうまく引き立てています。
見どころ
特に、大どんでん返しがあるわけではなく、日常的な物語を、4人の会話でつむいでいきます。
とても安心感のある物語です。
ところどころ、クスッと笑えるひねたジョークが三谷幸喜らしくてとてもGOODです。
DVDで観るのにちょうどよい舞台だと思いました。
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