「ハーバード白熱教室」はハーバード大学で最も有名なマイケル・サンデル教授の1年間の哲学の講義を全て収録したDVDです。
マイケル・サンデル教授は「正義・公正とは何か」を身近な事例でおもしろく話します。
日本では、「これから正義の話をしよう」という、マイケル・サンデルの講義内容を書籍化したものが大ヒットしました。
ごくごく身近な話から哲学につなげていくマイケル・サンデルの話力に引き込まれます。
また、生徒たちの意見を的確に理解して次の話題につなげていく様子は見ていて感動すら覚えます。
他にも有名講師による大学講義のDVDを紹介しています
池上彰の経済教室 第1回~第13回は戦後・冷戦・高度経済成長の講義
第1回 殺人に正義はあるか
人の命を選択することは正義か
講義のつかみとして、マイケル・サンデルの代名詞ともいえる人間の命に関する次のようなクイズを出しました。
どっちを選ぶのが正解でしょうか。
先ほどの問題と違うのは、スイッチを操作するのではなく、直接人を突き落とすという行為です。
1人の命を犠牲にして5人を助けるという結果は同じですが、倫理的に後者の行動には問題があると考える人が多いのが人間の感情の不思議なところです。
マイケル・サンデル教授は言います。
「哲学は、私たちを動揺させる学問である。」
多数派が正しいのか
また、次の事例として、ジェレミー・ベンサムの功利主義が正しいのかを議論します。
ベンサムが功利主義を分かりやすく説明した言葉「最大多数の最大幸福」が正しいのか見当します。
「最大多数の最大幸福」は、言い換えれば少数派の不幸を認めることでもあります。
自分が生きるために人の命を奪うのは正義か
19世紀に実際に起こった事例で正義とは何かを考えます。
その中の1人の少年が飢えに耐えられず海の水を飲んでしまい、死にかけます。
残りの3人の男たちは、食糧がつき困ってしまったとき、少年を殺して食べてしまいました。
自分たちの命を守るために人を殺して食べることの正義について議論します。
第2回 命に値段をつけられるのか
人の命を金銭に換算すること
ある自動車メーカーが、車の重大な欠陥により多数の自動車事故を引き起こしてしまいました。
自動車メーカーは、リコールを行う費用と、事故の死傷者に金銭的補償を行う費用を比較してリコールを行わないこととしました。
自動車メーカーがした判断は正しかったのでしょうか?
経済的な問題と倫理的な問題が絡み合った難しい問題です。
ソーンダイク
功利主義に対する批判、人の命に値段は付けられない、という批判に対するソーンダイクの調査はとてもおもしろいものです。
歯を抜く、足の小指を切断する、などの行動に値段をつけ、いくら払えば人はこれらの行動をやってくれるのかを測定しました。
ジョン・スチュアート・ミル
そして、ベンサムに並ぶ功利主義の有名人、ジョン・スチュアート・ミルの登場です。
ミルは、幸福とは何かという哲学の命題に関して、次のように答えました。
「二つの喜びのうち、両方を経験した者が全員またはほぼ全員道徳的義務感と関係なく迷わず選ぶものがあれば、それがより好ましい喜びである。」
第3回 富は誰のもの?
功利主義の反対論者の立場として、新自由主義者の主張について検討します。
可能な限り国家の個人への介入を少なくすることを目指します。
新自由主義者の所有権絶対のルールに対し、「お腹がすいて死にそうな家族のために盗みを働くのは許されるか」「ビルゲイツのような大金持ちから税金を徴収するのは悪いことか」といった議論を行います。
第4回 この土地は誰のもの?
ジョン・ロックの「私たちは自分自身を所有している。これは自ら誰かに譲ることもできないし誰かに奪われることもない不可譲の権利である。」という言葉から事例を検討していきます。
自分自身を所有しているということは、自分自身が行う労働も所有しているということです。
アメリカのある製薬会社がたくさんの労働力を用いて、エイズの薬を開発し、特許権を得ました。
南アフリカはエイズで苦しむたくさんの国民を救うためそのエイズ薬の作成方法を独自のルートで手に入れました。
アメリカがこのエイズ特効薬の仕様と差し止める請求を行うことは、倫理上問題があるのでしょうか?
第5回 お金で買えるもの 買えないもの
アメリカで南北戦争が起こった際、徴兵制で兵士に選ばれてしまった人は、自分の代わりに戦争に行ってくれる人をお金を払って募集することができました。
自分で値段を決めて「代わりに戦争に行ってくれる人に500ドル払います」と新聞等に広告を出して募集することができました。
これは、人の命に値段をつけることに近い行動であるといえます。
このような行動は、果たして倫理的に正しいことなのでしょうか。
別の例として、アメリカで代理母出産を行った女性が、子供を手放すのが嫌になり、引き渡しを拒んだという事件がありました。
この裁判を参考に、精子や卵子を売買することは道徳的に正しいのかを検討します。
第6回 動機と結果 どちらが大切?
マイケル・サンデル教授が最も難しい哲学者と言うイマヌエル・カントに関する講義です。
- カントの考える自律と他律とは?
- カントの提唱する自由から導かれる道徳とは?
第7回 嘘をつかない練習
イマヌエル・カントは嘘をつくことは道徳的に正しくない、絶対に許されないとしています。
かつてクリントン元大統領が不倫の裁判で言った「言い逃れ」の言葉は、本人によれば「真実だけど誤解を招く主張」とのことです。
「真実だけど誤解を招く主張」であれば、たとえ嘘でなくても相手を勘違いさせて誤った行動をさせることができます。
この「真実だけど誤解を招く主張」なら、カントの道徳的主張に矛盾しないのでしょうか?
第8回 能力主義に正義はない?
人はどのように富や権力を分配するべきか。
ジョン・ロールズの「富の分配は恣意的なものによるべきではない」という理論について議論します。
また、ジョン・ロールズの提唱する格差原理について検討します。
富は個人の能力により分配されるという意見があります。
しかし、有名大学に通う生徒の75%が裕福な家庭の出身という事実を突きつけ、能力ですら富により与えられるという議論に発展します。
第9回 大学資格を議論する
アファーマティブアクション、積極的差別是正措置を大学の入学に適用することは正しいものだろうか、という議論でっす。
アメリカでは、積極的差別是正により、白人より黒人のほうが大学に合格しやすいのではないか、ということが社会問題になったことがあります。
実際に、白人であったがために黒人と同じ成績でも大学を不合格とされたことを訴えた裁判例があります。
かつてアリストテレスは、「最高のフルートを分配するのにふさわしいのは、最もフルートを吹く能力が優れた者である」と言いました。
積極的差別是正措置は、このアリストテレスの考え方と矛盾するのか、というのがこの回のテーマです。
第10回 アリストテレスは死んでいない
第10回は、アリストテレスの思想に関する講義です。
- 「テロス」つまり「目的」とは?
- 「ポリス」つまり「都市」に生活し政治活動に参加する意義とは?
物事の目的を正しく理解することが、アリストテレスの正義を理解するうえで重要なことです。
足に病気を抱え長時間歩けないプロゴルファーが、ツアー中にカートを使用したいという訴えに対しゴルフ協会は認めませんでした。そのゴルファーは訴訟を起こしました。
この訴訟では、ゴルフの目的は止まって球を打つことなのか、コースを歩くことも目的に含まれるのかが大きな議論となりました。
第11回 愛国心と正義 どちらが大切?
ある戦争で、戦闘機のパイロットがある村を爆撃する命令を受けました。
しかし、そのパイロットは爆撃する村が自分の出身地であることに気が付き作戦を拒否しました。
戦争で戦い自分の国を守る「愛国心」と、自分の出身地のコミュニティの一員である「愛国心」が矛盾する話です。
第12回 善き生を追求する
最終回は、これまで紹介した哲学者たちの話ではなく、マイケルサンデル自身が考える「正義」についての講義です。
「正義」と「善」の関係について語ります。
同性愛は善なのか。白熱の議論が起こります。
これまでの講義の結びとして、マイケル・サンデルは次のように語りました。
「私たちが他者とのかかわりあいの中で生きている以上避けることができない決して答えのない哲学をこれからも学び続けることが大切」
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