レシピ公開「伊右衛門」と絶対秘密「コカ・コーラ」、どっちが賢い?は、特許などの知的財産権によるビジネスの実態を書いた新潮社から2016年に出版されたビジネス関連本です。
この本では特に、日本企業がどれだけ知的財産権に対して無知で、それによりどれほど海外に日本の技術が海外へ流出してしまっているかを解説してくれています。
著者、新井信昭はどんな人?
著者の新井信昭(あらいのぶあき)は、知財コミュニケーターという肩書で、知的財産をつくり、守り、利用するためのノウハウを人に教えています。
新井信昭氏は、高校卒業後、タクシー運転手で稼いだお金で世界一周し、帰国後精密機器メーカーで働きながら弁理士の資格を取得、独立し特許事務所を開設しました。
知的財産権に無知な日本企業から技術が海外に流出した
日本の金型産業はかつて世界的に突出した技術力を持っていました。
しかし、1990年代に日本の大手企業が、安い労働力を海外に求め、金型図面を下請けの金型企業に提出させ中国などの外国企業に渡してしまいました。
そこから多くのノウハウが海外へ流出してしまい、安い海外の労働力に押されて日本の歴史と伝統のある金型産業は一気に衰退してしまいました。
日本の中小企業に知的財産権に関する正しい理解があり、金型図面を守ることができていれば、このような事態にはならなかったのかもしれません。
知的財産権をうまく守った例として、ノーベル生理学・医学賞をとった山中伸弥教授の戦略があります。
山中伸弥教授は、ips細胞のマウス実験に成功した後、ヒトips細胞の成果を発表する前に、国際特許を取得しました。
そのため、ヒトips細胞の論文発表後に起こったアメリカのベンチャー企業との争いを早期に決着することができ、ノーベル賞をとることができたともいえます。
特許にかかるお金
特許にはたくさんの費用がかかります。特許取得後も争いになってしまったときには裁判により権利を守る必要があるため大きな費用がかかります。
その費用を考えても特許を取得するほどの経済的な価値があるのかをしっかりと考えたうえで特許出願するのかを判断する必要があります。
- 弁理士に出願書類を作成してもらうのに30~50万円
- 特許庁に審査してもらうのに印紙代含めて15~20万円
- 特許料として毎年5~10万円の年金
特許のリスク
とりあえず特許を取得してしまえば、組織の知的財産は安全だと考えて安易に出願してしまう企業がたくさんいます。
- 特許庁の審査に1~3年かかる
- 一発で審査にとおるのは全体の20%程度
- 出願した特許の半分は最終的に特許を取得できずにあきらめてしまう
- 出願して1年半たつと特許が取れたかどうかにかかわらず特許庁のホームページに掲載されてしまう
特許が認められなかったあげく、海外にアイデアが流出してしまうという事態が実際に起こっています。
特許出願を見極める3つのポイント
著者が考える特許出願をすべきかどうかを見極めるポイントを3つに絞ると以下のとおりです。
- その特許が現在または将来の自分のビジネスに役立つかどうか
- 自分のアイデアをもとに作られた製品を見ただけで、他者がそのアイデアを真似できるかどうか
- 自分のアイデアをパクった者が現れたとき、裁判で戦う覚悟と勇気と費用があるかどうか
特許の重要ポイント「新規性」
特許法では「新規性のないアイデアは、特許を認めない」と規定しています。
新規性のないアイデアとは、以下の3つを指します。
- 誰かが他人に話してしまったアイデア
- 誰かが他人に見せてしまったアイデア誰かが刊行物やインターネットなどに公開してしまったアイデア
過去には、新しいアイデアのサンプル品の作成をある企業に依頼してしまったために、アイデアが外部にもれてしまって特許が無効になってしまったという事例があります。
特許にまつわるおもしろ訴訟
- サトウの切り餅vs.越後餅
- どん兵衛vs.サッポロ一番
- アップルvs.日本の個人発明家
- パイオニアvs.ナビタイムジャパン
特許に関する争いでは、特許よりも前にそのアイデアが存在していたことを証明してしまえば、特許自体を無効にひっくり返すことができますので、世界中からそれっぽい情報を集められ、特許権者が敗北することがよく起こります。
著者が考える、知的財産権を守る一番大事な方法は、
アイデアは見せない、出さない、話さない
ということです。
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