「アフガニスタン 干ばつの大地に用水路を拓く 治水技術7年の記録」は、アフガニスタンで巨大な用水路を建設し、10万人の人々の命を守った一人の医師、中村哲の物語です。
2003年3月から7年の歳月をかけて、全長25.5キロの用水路を完工。
アフガニスタンの砂漠に3000ヘクタールもの農地が蘇りました。
中村哲とは?
中村哲は、一人の日本人医師です。
長きに渡りアフガニスタンで、ペシャワール会という組織を作り、人々に無償で医療を行なっていました。
2003年より、アフガニスタン人の生活を守るため用水路の建設を開始し、2010年に完成。
アフガニスタンでは英雄のような扱いを受けていましたが、2019年12月4日にアフガニスタン国内で何者かの銃撃を受け死亡しました。
用水路建設当時のアフガニスタン
アフガニスタンは9.11アメリカテロの首謀者とされるウサマ・ビンラディンをかくまったとされましたが、当時のタリバン政権は、ウサマ・ビンラディンの引き渡しを拒否したため、アメリカから空爆を受けました。
アメリカの空爆により罪のないアフガニスタン人がたくさん死んでいきました。
用水路建設開始を決意
2003年頃のアフガニスタンでは大規模な干ばつが起きて、人々の食料と飲料がなくなり死んでいく人が増えていきました。

©ペシャワール会/(株)日本電波ニュース社
中村哲のところに来る患者たちも、ほとんどがきれいな水さえあればかからないような病気の人たちばかりでした。
そこで、中村哲は白衣を脱いで、作業着に着替えて大きな用水路を作ることを決意します。

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中村哲には用水路建設の知識は全くありませんでした。
それでも、アフガニスタンの人々の健康を根本から解決するには、医療行為だけでは、どうしようもないと思ったのです。
用水路建設の開始
建設する用水路は、「真珠の水」という意味の「マルワリード用水路」と名付けられました。
用水路建設工事には、近くの農民だけでなく、近隣国へ亡命していた難民たちも参加しました。
当時、難民は世界中からアフガニスタンに戻され、100万人もの人が職も家も食べるものもないままあふれかえっていました。
中村哲が行う用水路建設作業は、難民たちに仕事を与えることにもなっていました。
日本円で240円ほどの日当は、難民たちにとって、生きていくための大事な収入でした。
ペシャワール会には日本からの寄付が集まっていたため、作業者たちに給料を払うことができていました。
用水路の建設工事では、現地農民の自立のため、近代工法を最小限に抑え、現地の道具と材料で行いました。
土を掘るときはツルハシとシャベルで行いました。

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コンクリートを使わず、蛇籠(じゃかご)という、石を金網で包む方法で土台を作っていきます。

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工事中はトラブルの連続
用水路を建設するための堰(せき)を作る作業で大きな問題が発生します。
川の水が急流すぎて、石を川に入れても入れても流れていってしまうのです。

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中村哲は、書物を読みあさり、江戸時代の山田堰という治水工事にたどりつきます。
堰をななめに作り、その後ろに石をなだらかな坂になるように敷き詰める方法で、見事に川からの取水に成功します。

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その後も、問題は次々に発生します。
米軍ヘリにより作業員たちが機銃掃射されるという事件が発生しました。
それでも作業を進めますが、固すぎる岩盤のせいでまっすぐ掘り進めなくなってしまいます。
岩盤のとなりに埋立地を作り、その埋立地を掘って用水路を作ることにしました。
アフガニスタンで過去に前例がない工事でした。
何度も何度も土を踏み固めて、強固な地盤を作りました。
7年をかけた工事は、砂漠に緑を蘇らせ、アフガニスタンの人々の生活を一変させました。
中村哲の言葉
アメリカによる空爆が始まったとき
「自由と民主主義」は今、テロ報復で大規模な殺戮戦を展開しようとしている。
おそらく、累々たる罪なき人々の屍の山を見たとき、夢見の悪い後悔と痛みを覚えるのは、報復者その人であろう。
瀕死の小国に世界中の超大国が束になり、果たして何を守ろうとするのか、素朴な疑問である。
用水路に水がとおったときの言葉
作業地の上空を盛んに米軍のヘリコプターが過ぎてゆく。
彼らは殺すために空を飛び、我々は生きるために地面を掘る。
彼らはいかめしい重装備、我々は埃(ほこり)だらけのシャツ一枚だ。
彼らに分からる幸せと喜びが地上にはある。
乾いた第一で水を得て、狂喜する者の気持ちを我々は知っている。
水辺で遊ぶ子供たちの笑顔に、はちきれるような生命の躍動を読み取れるのは、我々の特権だ。
そして、これらが平和の基礎である。

©ペシャワール会/(株)日本電波ニュース社
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