超一流投資家の失敗から学びたいなら「地獄を見た11人の天才投資家たち」

地獄を見た11人の投資家たち 投資・金融・会社経営
©スティーブン・L・ワイス/道出版

どんなにすごい投資家でも、成功し続けることは不可能に近いものです。

地獄を見た11人の天才投資家たち」は、アメリカでは著名な投資家たちが過去に犯した投資の失敗を振り返る反面教師的な投資関連本です。

 

ポイント

  • 信用取引で一つの株に集中投資してはいけない
  • 空売りは天井知らずの損失を出す可能性がある
  • 投資先の変化に気付くことで避けられるリスクがある
  • 災害などの特殊な要因が発生しないというリスクもある
  • 大手金融機関が投資しているから安全な投資先とは限らない

オーブリー・マクレンドン

オーブリー・マクレンドンは1989年に、トム・ワードと共にチェサピーク・エナジー社を設立しました。

チェサピーク・エナジー社天然ガス掘削会社です。

設立当時は世界中でエネルギーの価格が上昇を続けていたため、天然ガス採掘会社は大当たりでした。

当時、他の天然ガス採掘会社は採掘権を購入して採掘を行う経営スタイルでしたが、チェサピーク・エナジー社は、自ら土地を購入し、採掘を行うビジネスモデルで大成功しました。

2008年には時価総額250億ドルに達するほど成長しました。

 

ところが、この土地を自ら購入するスタイルが自身の首を絞めることになります。

オーブリー・マクレンドンは新株を発行しては、その自社株を担保に借り入れを行い、土地の購入を進めていきました。

しかし、2008年になりエネルギー価格が下降し始めると、チェサピーク・エナジー社の株価がジリジリと下がり始めます。

そうなると、担保に入れていた自社株が担保割れとなり、新たな土地を買うための資金繰りができなくなってしまいます。

そうなるとチェサピーク・エナジー社の株価はさらに下がり、負のスパイラルになりました。

オーブリー・マクレンドン自身も、信用取引によりレバレッジをかけて自社の株を買い続けていました。

結局、彼は30億ドルあった資産のうち20億ドルを失う結果になってしまいました。

アドルフ・メルクル

アドルフ・メルクルは、ドイツの有名な製薬会社ラティオフフォームと建築資材のハイデルベルグセメントの二社を軸にした企業集団のリーダーであり、92億ドルの資産を持っていました。

アドルフ・メルクルは、2008年にフォルクスワーゲンの株を空売りしました。

当時、世界中の自動車メーカーが、販売不振に陥っていて、自動車株を空売りを行うのは自然な流れでした。

しかし突然、ポルシェ社が、フォルクスワーゲンの株の購入を進めていることが発表されると、翌日の株価は273ドルから1303ドルに跳ね上がりました。

突然現れた大ニュースにより財産の大半を失うこととなってしまったアドルフ・メルクルは自宅近くの線路上で迫りくる電車の前に飛び込んでしまいました。

カーク・カーコリアン

カーク・カーコリアンの一族はアメリカのカリフォルニアのレーズン栽培のため渡ってきたアルメニア人です。

1921年に発生した不景気で、レーズン産業も需要が低下し、カーク・カーコリアンは貧困な子供時代を過ごしました。

青年になったカーク・カーコリアンは、TIAという小さな航空会社に目を付けました。

航空会社を買い、会社が保有していた爆撃機に搭載されていたたジェット燃料を売却してローンを返済しました。

当時はジェット燃料が高騰していて、それを売却するだけで航空会社を買ったときの借金が返済できました。
残った機体とTIA社を売却し、大きな利益を上げました。
それ以降、カーク・カーコリアンは企業の買収・売却により資産を築いていきます。
 
最も成功したのは、大手自動車メーカー、クライスラーの買収です。
 
彼はクライスラーの株を買い集め、発行済み株式数の10%を取得します。
買収を恐れたクライスラーの経営陣はライバルの自動車会社ダイムラー社による買収案を受け入れました。
カーク・カーコリアンは、取得した株式を全てダイムラーに譲渡し、27億ドルという利益を得ました。
 
この自動車会社での大成功が、後にカーク・カーコリアンを地獄に落とします。
 
彼はフォード社でも同じように株式の購入を進めていきました。
しかし、フォード社は経営陣が株式の40%を保有しているため、カーク・カーコリアンの株式購入は意に介しませんでした。
そんな中、自動車の売れ行きの不振で、フォード社の売上高が35%も下落し、株価が暴落してしまいました。
カーク・カーコリアンはフォードへの投資で10億ドルの投資金額のうち7億ドルを失うことになってしまいました。

ディビッド・ボンダーマン

ディビッド・ボンダーマンは、投資会社TPGという未公開株への投資を行う500億ドルの資産を運用する会社を経営していました。

ディビッド・ボンダーマンは、ワシントン・ミューチュアルという銀行に投資しますが、この銀行が経営破綻してしまいました。

彼はかつてこの銀行の取締役だったのですが、その後の経営悪化について、正しく調べずに投資を行ってしまいました。

自身がかつていた頃の銀行とは違っていることに気づけなかったのが投資失敗の原因でした。

ビル・アックマン

ビル・アックマンはアメリカの有名なアクティビストです。

アクティビストとは、「物言う投資家」のことで、株主として経営陣に積極的に経営改善を促します。

2007年にターゲット社という高所得者層向けのディスカウントストアを経営する会社の株を買い進めました。

そして、経営陣に、過剰な不動産を売却し株主への還元を進めるように提案します。

そして、経営陣との話し合いが進んでいる途中でクリスマス商戦の販売不振が発生し、売上高が減少、株価が暴落してしまいます。

ビル・アックマンは巨額の損失を計上し、ターゲット社の株を手放すことになってしまいました。

ビル・アックマンの失敗は、自身の提案の最中に小売業全体の低迷が発生することを予測できなかったことです。

ニック・マウニス

ニック・マウニスは、投資会社アマランス・アドバイザーズを経営していました。

毎年、ある時期になると天然ガスの価格が高騰することをデータで知っていたニック・マウニスは天然ガスを買い進めていました。

しかし、2008年はハリケーンがほとんで発生せず天然ガスの価格は高騰せず、むしろ急落してしまいました。

その失敗によりアマランス・アドバイザーズは46億ドルを失い、倒産してしまいました。

レオン・クーパーマン

レオン・クーパーマンは、投資会社オメガ・アドバイザーズを経営していました。

オメガ・アドバイザーズは、ビクター・コズニーという男にだまされて大金を失ってしまいます。

ビクター・コズニーはアゼルバイジャンという国の国営石油会社SOCARの証票をアメリカの投資家たちへ販売していました。

今後、アゼルバイジャンの民主化が進みSOCARが民営化されれば、この証票は莫大な利益を生むと、ビクター・コズニーは主張して投資家を集めていました。

レオン・クーパーマンはこれに引っかかり、1億8000万ドルを投資してしまいます。

結局SOCARの民営化は行われることはなく、ビクター・コズニーは逃亡してしまい、レオン・クーパーマンの手元に残ったのは紙くずとなった証票でした。

ビクター・コズニーは、アゼルバイジャンの政府要人との交渉がうまく進んでいるような資料を作り上げて投資家たちをだましていました。

リチャード・ゼナ

リチャード・ゼナは投資会社ゼナ・インベストメント・マネジメントを経営していました。

リチャード・ゼナは1990年代の銀行株全体の低迷期に、生き残る銀行を精査し、バリュー株投資により銀行の業績復活とともに名声を得ました。

2007年、かつての1990年代と同じような金融株の人気の低迷が起きていました。

リチャード・ゼナファニーメイフレディーマックという住宅ローンの金融公庫の株を割安と判断して取得しました。

そこで発生したのが2008年のリーマン・ショックです。

ファニーメイフレディーマックは、破綻を逃れるため国有化され、株式は紙くずとなってしまいました。

ゼナ・インベストメント・マネジメントは運用資金500億ドルの半分を失うことになってしまいました。

ジェフ・グラント

ジェフ・グラントは、世界一有名な投資会社ゴールドマン・サックスで働いていました。

退職後、ロン・ベラーとともにペロトン・パートナーズというヘッジファンドを設立します。

2006年に資産担保証券(ABS)への投資を行いました。

このABSにはリーマンショックの引き金となる、サブプライムローンを証券化した債権が含まれていました。

そして、リーマンショックの到来によりABSは暴落してしまいペロトン・パートナーズは大金を失うことになってしまいました。

クリス・デイビス

クリス・デイビスは投資コンサルティング会社デイビス・セレクテッド・アドバイザーズを経営していました。

デイビス・セレクテッド・アドバイザーズは、世界最大の保険会社AIGに投資していました。

AIGといえば、超巨大企業であり、当時は安全な株であると言われていました。

AIGはサブプライムローンのCDS(クレジットデフォルトスワップ)を大量に発券していました。

CDSとは、サブプライムローンが破綻しなければ手数料を儲けることができるのですが、破綻するとCDSを買った人に大量のお金を払わなければいけない取引です。

そして、リーマンショックが起こり、AIGはとんでもない額の負債を抱えてしまいます。

AIG株に投資していたデイビス・セレクテッド・アドバイザーズも多額の損失を被ることになりました。

マドフ事件

マドフ証券を経営していたバーナード・マドフは、史上最大の詐欺師として歴史に名を残しています。

詐欺の内容は単純で、顧客から集めた資金を運用せずに、他の顧客から集めた資金を配当に回す自転車操業を行っていました。

日本でも大手証券会社や保険会社が、この詐欺の被害者になるほど巨大な資金を集め、総被害額は5兆円におよぶとも言われました。

世界中の大手金融機関が投資を行っていたため、まさか詐欺であるとは誰も気が付かずに、投資を行う企業がどんどん増えていったことが、被害を大きくしてしまいました。

 

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