2010年6月、小惑星イトカワのかけらを地球に持ち帰った小惑星探査機「はやぶさ」。
地球から3億km離れた場所を回っている小惑星です。
7年間、60億kmも宇宙を冒険して帰ってきました。
小惑星イトカワから採取したカケラを分析したところ、46億年前のものであることがわかりました。
46億年前は、太陽系が誕生した頃です。
つまり、このカケラを調べることで太陽系の起源に近づくことができるのです。
「コズミックフロント 大冒険!はやぶさ 太陽系の起源を見た」のDVDの内容を元に、その軌跡を追っていきます。
探索の開始
2003年5月9日、小惑星探査機はやぶさが打ち上げられました。

©NHKエンタープライズ
世界のどの探査機も成功したことのない、小惑星のカケラを持ち帰るというミッションが課せられました。
なぜ小惑星イトカワが選ばれたのか
地球や火星などができた過程
- 46億年前、太陽ができあがった後、残った物質(チリなど)が円盤状に並んだ
- チリがだんだん集まり、10万年をかけて大きさ数キロの微惑星ができた
- 微惑星同士の衝突、合体が起こり数百万年後、直径千キロを超える原始惑星ができた
- 原始惑星同士が互いの引力で衝突し、惑星が誕生
しかし、なぜ火星が地球より小さいのか、木星があんなに遠い位置にできたのか、スーパーコンピューターによる計算では説明がつかないことがたくさんあります。
火星と木星の間に大量にある小惑星を調べ、小惑星ができたときの温度や圧力が分かれば、これらの問題を解く大きなカギになります。
そのために小惑星の探査が必要になりました。
はやぶさは、その目的を叶えるためにイトカワを目指したのです。
イトカワが選ばれたのは、周回軌道の関係で3年に1度地球に接近するためです。
はやぶさの性能
はやぶさは、高さ3m、奥行き4.2mというサイズです。
カメラが4台搭載されています。
イオンエンジンが搭載されています。
従来の化学エンジンは、燃料と酸化剤を燃やした化学反応で推力を得ます。
イオンエンジンは、キセノンガスをイオン化し、プラスのイオンがマイナスの電子に引き寄せられることで推力を得ます。
JAXAが総力を挙げて作り上げたエンジンです。
出発後にいきなりピンチ
地球出発から半年、2003年11月4日、観測史上最大の太陽フレアが起こったことにより、粒子の直撃を受け、太陽電池の出力が落ちてしまいます。
この太陽フレアは、磁気嵐を発生させ、地球上にある電子機器を狂わせるほどの強いものでした。
このときの太陽フレアは、1975年の観測開始以降、最も強いものでした。
しかし、何とか故障を免れ、小惑星イトカワへの旅を続けます。
イトカワへ到着
2005年9月12日、はやぶさは、観測のベースとなるイトカワまで20kmの位置に到達します。

©NHKエンタープライズ
ほとんどの科学者たちが、1枚岩でクレーターがたくさんある小惑星であると予想していましたが、はやぶさが撮影したイトカワは、クレーターが全くなく、たくさんの岩石で覆われたものでした。
さらに解像度の高い映像が送られてきて、小さなクレーターが30個ほどあることが分かりました。
月のような丸いクレーターができないのは、ラブルパイル天体と呼ばれる、岩石が集まってできた天体だったからです。
ラブルパイル天体は、計算上は存在することが知られていましたが、実際に観測されたのは初めてでした。
岩石の採取開始と大トラブル
いよいよ岩石の採取に入ります。
イトカワは岩だらけではやぶさがうまく着地できる場所は限られています。
リスクを最小限に抑えつつも、科学的に有意義な岩が採取できる場所を選定するため議論が重ねられました。
そして2005年11月20日、はやぶさがイトカワに着陸します。
着地の命令を出して、あとははやぶさ自身が判断して降下します。
地球に送られてきたデータでは、既に着陸しているはずなのに、さらに潜っていくような数字で、状況が分からなくなりました。
やむを得ず、サンプルを採取できたかどうかも分からないまま、緊急離脱の指令を出しました。
トラブルの原因
はやぶさは着陸の途中でバランスを崩し、イトカワの地表で何度もバウンドしていました。
しかも、サンプル採取のための弾丸が発射されていないことが分かりました。
再チャレンジ
このまま地球へ帰還させるのか、もう一度チャレンジするのか、難しい判断が迫られました。
プログラムの修正を行い、再チャレンジです。
地球への帰還の燃料を考えると、次がラストチャンスでした。
2005年11月25日、無事に着陸し、イトカワを出発したサインが到着しました。
帰還中もピンチの連続
地球帰還中にも大ピンチが訪れます。機体の一部からガスが噴き出し、向きが安定しないことが分かりました。
このままでは太陽にソーラーパネルを向けることができないため、電池切れになってしまいます。
そして、やがて電池切れが発生し、地球では、はやぶさを見失ってしまいました。
これにより、大半の科学者たちが実験は失敗したと考え、現場を離れていきました。
奇跡が起こる
現場に残された人達はまだはやぶさが生きている可能性を信じ続けていました。
偶然はやぶさのソーラーパネルが太陽のほうを向き、電池が復活すれば地球と交信が取れる可能性にかけて、毎日指令を送り続けます。
2006年1月、奇跡の瞬間は突然起こりました。
はやぶさが地球からの交信に反応したのです。
そして、計算の結果、不時着した際にイトカワのカケラが跳ね上がり、偶然受け皿にサンプルが採取できている可能性があることが分かりました。
地球への帰還を再計画
次にハヤブサの軌道が地球に近づく2010年に地球へ戻ってこさせることにしました。
燃料をわざと噴出させる方法と、太陽からの光が出す圧力を利用する方法を駆使して、姿勢制御が可能になりました。
しかし、また新たな問題が発生します。
元々4年で帰還するはずでしたが、6年を超えてしまったためエンジンが寿命を迎え、完全にストップしてしまいました。
4つのエンジンが搭載されているのですが、それぞれのエンジンの生きている部分を連動させてエンジンをよみがえらせることに成功しました。
いよいよ地球へ帰還
2010年6月13日、はやぶさは地球に戻ってきました。
カプセルを地球に向けて放ちます。
はやぶさは3時間後に大気圏で燃え尽きてしまいます。

©NHKエンタープライズ
大気圏突入時、美しい光をあげながらはやぶさは燃え尽きます。
残った一筋の光、つまりカプセルはオーストラリアのウーメラ砂漠に落下しました。
サンプルは採取できたのか?
4日後、空路で日本に到着したカプセルはJAXAに届けられました。
空っぽに見えた容器の中には、顕微鏡で見えるくらいの小さな物質がたくさん見えました。
ほとんどはカプセルのアルミがはがれただけでしたが、その中に0.03mのイトカワのカケラが入っていました。
よく調べると、1500ものカケラが見つかりました。

©NHKエンタープライズ
いくつもの奇跡が重なって、世界初の偉業が達成された瞬間でした。
イトカワのカケラの中にあるアルミニウム26という放射物質を測った結果、イトカワは太陽系ができて、わずか760万年後にできたものであることが分かりました。
イトカワの元は20kmの微惑星であったのですが、他の小惑星の衝突により粉々に破壊されて、それが重力によりゆっくりと集まって固まったことが分かりました。
その後も、イトカワのカケラは世界中の科学者たちの元に届き、太陽系にとって大切な情報が次々と解明されています。
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