森内俊之と羽生善治は、同い年で同期のため、宿命のライバルと言われています。
2008年に二人がいよいよ名人戦で激突することとなりました。

©NHKエンタープライズ
4年前、羽生善治から名人位を奪った森内俊之は、そのまま4期連続名人位を守り抜き、通算5期で永世名人となっていました。
羽生善治としては、何としても奪還したいタイトル。
3か月に渡る熱戦が幕を開けました。
参考資料:DVD「プロフェッショナル 仕事の流儀 最強の二人、宿命の対決 名人戦 森内俊之VS羽生善治」
早熟の羽生善治と遅咲きの森内俊之
小学校4年生の将棋大会で出会った二人は、翌年奨励会に入ります。
中学3年生という異例の速さでプロになった羽生善治に対し、森内俊之は1年半後にプロになりました。
羽生善治は次々とタイトルを獲得し、25歳で前人未到の7冠に輝きます。
森内俊之はタイトル戦に挑戦することすらできませんでした。
常に羽生善治に対する劣等感の中で戦い続けました。
形にこだわらずに自分の将棋をしてみようと、開き直った森内俊之は、今までの重厚な将棋に加え、新しい打ち筋を見せ、31歳で初タイトル名人戦を手にします。
32歳の竜王戦で羽生善治から4連勝でタイトルを奪います。
そのまま森内俊之の将棋は花開き、名人位を5回獲得し、羽生善治を圧倒しました。
名人戦前までは羽生善治が50勝41敗で勝ち越していましたが、歳を取るにつれて、少しずつ森内俊之の勝ちが増えていきました。
なりふり構わず勝ちに行く姿勢に疑問を持ち始めていた羽生善治は30を過ぎて勢いをなくしていきました。
竜王戦に続き、王将戦、名人戦と次々に森内俊之にタイトルを奪われていきます。
目の前の対局に全てを注ぎこむことを改めて学んだ羽生善治の中で、何かが変わり始めました。
第1局
第1戦、羽生善治は44手目に1手損する手をあえて指すという、将棋界の常識を覆す方法で、森内俊之の先手を鮮やかに封じました。

©NHKエンタープライズ
しかし、森内俊之は反撃の瞬間をじっくりと待ち続けます。
58手目、羽生善治が8六飛車という明らかに勝ちを急いだ手を打ちます。
対局開始から19時間、名人森内が勝利を手にします。
第2局
30手目、森内俊之が定石とは違う手に出ます。
続く羽生善治も型破りの手で応戦し、400年の将棋の歴史で前例のない局面に突入します。

©NHKエンタープライズ
混沌とした局面は、もはや二人だけの世界となり、対局を見守るプロたちも「さっぱり分からん」と言います。
指している二人も不思議な局面に思わず笑ってしまいます。
17時間が経過した頃、ようやく羽生善治が優勢であること見えてきます。
そのまま押し切り、1勝1敗となりました。
第3局
最初に仕掛けたのは森内俊之、31手目で4五銀とします。
棋士人生で初めて指した奇襲でした。

©NHKエンタープライズ
完全に森内俊之のペースに入ります。
開始から15時間、間もなく羽生善治の投了かと思われていました。
最善手を探し続け、さらに2時間が経った頃、その執着心に森内俊之が焦り始めます。
そして森内俊之が指した9八銀は意味のない痛恨の手でした。
そのミスを見逃さず羽生善治が形勢逆転、164手目、歴史に残る大逆転で投了します。
第4局
森内俊之が大胆に14手目2二飛車で未知の局面へと誘い込みます。
2戦目のように、混沌とした局面へ入ります。
対局開始から18時間半、羽生善治の手が震え始めます。
第5局
森内俊之がまさかの戦略に出ます。
痛恨の敗北を喫した第3局と同じ手に出たのです。
さらに森内俊之はリスクの高い大胆な手を打ちます。
羽生善治が長考に入り、封じ手となりました。
翌日、羽生善治が打った1手は、観る者の度肝を抜く、強気の手でした。

©NHKエンタープライズ
しかし、森内俊之も一歩も引かず、ぐいぐいと羽生善治を押し込んでいきます。
このまま森内俊之が勝利し、2勝3敗で次へつなげます。
第6局
森内俊之が自分の駒を損してまでも、飛車を下げて羽生善治の攻めを誘う大胆な手に出ます。

©NHKエンタープライズ
羽生善治の表情が変わります。
後に、羽生善治はこの手を「率直にすごいと思います。なかなかひけないですよ飛車は、あの局面では。」と言っています。
お互い引かない将棋。
16時間後、83手目、5三桂成で羽生善治が最短で勝ちを決めに行きます。
勝負が決まりました。
2か月半に及ぶ終生のライバルの戦いは4勝2敗で羽生善治に軍配が上がりました。
コメント