「茶師」という職業をご存知でしょうか?
茶葉の特徴を見抜き、それをブレンドすることで最高の味を引き出す茶を作る江戸時代からの伝統の職業です。
全国茶審査技術競技大会で平成5年に日本一となり、その後、史上初の十段を獲得した日本一の茶師が前田文男という人物です。

©NHKエンタープライズ
お茶の世界では、前田文男の名前を言うだけで通用する、まさに超一流ブランドです。
記事の元となった資料:DVD「プロフェッショナル仕事の流儀 茶師 前田文男の仕事 一葉入魂、本文を尽くす」
繊細なプロの仕事
前田文男は、味覚が影響を受けないよう、午前3時に起きて、食事を食べずに出かけます。
誰よりも早く斡旋屋にやってきて、お茶の見本の缶を抱えて午前4時に職場へ行きます。
缶を開けて、中に入っている茶葉を全て器に出していきます。
一つ一つ手で触り、においをかぎわけます。
その中で気に入った物を注文します。
午前6時になると、市場へ行き、また茶葉を吟味します。
自分が気に入ったものを仕入れていきます。

©NHKエンタープライズ
型詰め、ひ出し、などの細かな作業を繰り返し、お茶を磨いていきます。
そして、お茶をブレンドしていきます。
おいしいお茶同士を組み合わせれば、良いお茶ができるわけではありません。
ブレンドする茶葉の種類が決まったら、配合の割合を変え、何度も何度も味を確かめます。
若き日の苦悩
前田文男は、祖父の代から続く茶師の家に生まれました。
父も茶師として働き詰めでした。
大学卒業後、自分は別の道を歩みたいと、電機メーカーに就職しました。
しかし、2年後、25歳のとき祖父から父の跡を継いでほしいと言われて断り切れませんでした。
筋が良く、2年後にはお茶の審査技術を測る大会で上位入賞しました。
自分に自信を持ち始めていました。
転機が訪れたのは27歳のとき、茶葉を選んでいるときでした。
どのお茶も納得がいかず、いいお茶を1つしか選べませんでした。
父に「いいお茶はもっとあるはずだ。」と怒鳴られました。
「良いお茶だけ買って何が悪い。」と反論しました。
「お前にはお茶が見えていない。」仕入れを外されてしまいました。
取引が終わった後の市場でお茶を見続けました。
ひたすらお茶を飲み続けました。
しかし、1年が過ぎても2年が過ぎても何も分かりませんでした。
5年目のことでした、形が悪く売れ残っていた高知産のお茶がなぜか目に入りました。
しかし、手に取るとずしっと重みがある。
買い付けてみることにしました。
形の悪い葉はふるいにかけて、何度も手作業で選別をしました。
そして、他の茶葉と合組させると、今までにないお茶ができあがりました。
「こういう、光るお茶を買ってこい。」と、父は言いました。
前田文男の名言
「欠点があれば長所もある。その長所を引き出してやることによって、一つのいいチームができる。どれ一つが引き立ちすぎても良くない。」
「今の自分があるのは、お茶を見る時間を与えてくれた会社と父のおかげ。」
プロフェッショナルとは?という質問には次のように答えました。
「自分の中にある弱い自分に負けない、強い心を持ち続けることですね。そんな中でも、おごることなく謙虚な気持ちを忘れず、常に努力をし続ける、そんな人がプロフェッショナルじゃないかなと思いますね。」
コメント