「京菓子司(きょうがしし)」という仕事をご存知でしょうか。
1893年の老舗京菓子店「末富」の三代目・山口富藏は、優雅な見た目と深い味わいで京都の神社仏閣や茶道の家元たちから絶大な信頼を集めています。
京菓子司の中で知らない者はいない、達人です。

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参考資料:DVD「プロフェッショナル仕事の流儀 京菓子司 山口富藏の仕事」
山口富藏の仕事
京菓子は、宮中の貴族文化で育まれた伝統料理です。
季節に合わせた自然を表現する、見た目の美しさにこだわったお菓子です。

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職場の2階に住む山口富藏は、朝目が覚めると朝食も取らずに1階の厨房へ向かい、料理人たちの指導をします。
末富の菓子は全て手作りで生み出されます。
均等な大きさにせず、あえて不ぞろいにします。
人によって個性があるように、お菓子1つ1つに個性があることを楽しんでほしいという意識です。
茶の湯で出される菓子では、参加する人たちの気持ちを読み、反映させていきます。
奈良の唐招提寺で開かれた茶会では、客人が襖絵の美しさに心をひかれたことから、襖絵の模様に合わせて波間に映る月を表現しました。
菓子が出される場所の歴史や文化を徹底的に勉強し、資料室で大量の文献を読み漁ります。
この、細やかなこだわりが、名家の家元たちに愛されています。
若き日の失敗
老舗和菓子店の3代目に生まれた山口富藏は、大学を出て間もなく父親の元で修業を始めました。

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父の仕事は猛烈でした。
食事もとらずに、休む間も持たずに働き続けていました。
自分だったらもっと効率のいい仕事をできるのに、と思っていました。
ある日、父親が倒れ33歳の山口富藏が代わりを務めることになりました。
ほどなくして、初めての大きな仕事が入ります。
大きな茶会の1000個のお菓子の発注がありました。
効率よく仕事を進めるため数時間早く仕事を始めました。
しかし、当日の朝、生菓子が乾き皮が固くなっていることに気が付きました。
泣く泣くその菓子を納品しました。
ひたすら頭を下げ、涙をかみこらえました。
茶会を開いた主から言われた言葉は「あんた、一期一会って言いますやろ。」でした。
そのときは意味が分かりませんでした。
半年後、父親が亡くなり店を継ぐことになりました。
父親がやっていたのと同じように丁寧に仕事に時間をかけました。
しかし、常連から言われた言葉は「お父さんのときとはえらい違うなあ。」でした。
材料も製法も同じはずなのに、何が違うのか分かりませんでした。
1年経っても、2年経っても同じことを言われ続けました、7年経ってもまだ言われ続けました。
ひたすら菓子に向かい続けましたが、評判は変わりませんでした。
そのとき頭に浮かんだのが「一期一会」という言葉でした。
一人一人の客に向き合い、その望むところを懸命に探りました。
客の要求に応えられるよう必死に歴史を勉強しました。
10年目を過ぎた頃、父と比較されなくなっていました。
客との出会いは一期一会、その姿勢が山口富藏を一流の菓子職人に育てあげました。
山口富藏の言葉
「いかに単純に作るか。それでいて、らしく見える。あまり写実的に見せたらダメ。」
「たったこれだけの世界から、世界を広げて余白を楽しむのもお菓子の面白さ。」
「お菓子作ろうと思ったらあかん。遊び心が大事。遊びがあるからこそ、イメージが広がり、世界が広がり、物語が広がる。」
プロフェッショナルとは?という質問には次のように答えました。
「やっぱり楽しめなあかんでしょう、やっていることに。自分の仕事であるけれども、そこになんとも言えん自分なりのうれしさを感じて楽しんで。プロをプロとしてやっていたらあかんと思います。やっぱりプロを楽しんでやらないと。」
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